リアル絵描き日記

画家明石恵のブログです。

韓信の股くぐり

今日も生きてます。

 

順調に「漫画でわかる日本絵画のテーマ」(監修矢島新)を読み進めています。

 

 

今日の1枚↓


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これは3代目堤等琳(つつみとうりん)が江戸時代後期に描いた韓信股くぐり図」

 

3代目を襲名したときに浅草寺に奉納した絵馬とされています。

 

なにも知らずにこの絵を見たら、真ん中の人が複数人にいじめられてる図。にみえますね。

(私は見えました。)

 

 

絵のなかで四つん這いになっているのが、題名にもなっている韓信(かんしん)です。

 

足を大きく広げた男の股下を潜ろうとしています。

 

 

歌川国芳も同じ画題を描いています。


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国芳の場合は一人の股下ではなく、何人も揃って股くぐりトンネル方式で表現しています。

 

 

なぜこのような画題が描かれたのか…?見ていきたいと思います。

 

 

 

韓信の人生


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韓信は漢の初代皇帝に仕えました。

漢の天下統一に貢献した名将です。

 

韓信は若い頃から頭角を示していたわけではなく、貧乏で品行も悪かったために職に就けず、他人の家に上がり込んでは居候するという生活をしていました。

(ひどい…)

 

なので町の人は皆韓信を見下していました。

 

 

ある日韓信は町のならず者に挑発されます。

 

「てめえは背が高く、いつも剣を帯びているが、実際には臆病者に違いない。その剣で俺を刺してみろ。できないならば俺の股をくぐれ」

 

 

韓信は黙って若者の股をくぐります。

 

周囲の者は韓信を大いに笑いました。

 

韓信がなぜ剣を抜かなかったのか

 

「恥は一時、志は一生。ここでこいつを切り殺しても何の得もなく、それどころか仇持ちになってしまうだけだ」

 

と冷静に判断していたのでした。

 

この出来事は「韓信の股くぐり」として知られることになります。

 

さて、世の中では秦の始皇帝の没し、大規模な動乱が始まりました。

 

ブラブラしていた韓信も、朗中(護衛官)や連敖(接待係)等として働くようになりますが、どこへいっても韓信は自分の能力が生かされていると満足することができませんでした。

 

そしてある時罪を犯した韓信は、同僚13名と斬刑に処されそうになります。

 

たまたまその場に漢の王の重臣がいたので、

 

「漢王は天下を取る大望があるのではないか?ならば、なぜ男一匹の首を斬るのだ!」

 

と、韓信は最後の望みをかけて言います。

 

その言葉を面白く思った重臣は、韓信を漢の王に推薦しました。

 

この重臣との出会いで韓信の人生は一変します。

 

韓信と話し合うにつれてその才能を認めた重臣韓信を重用するように漢の王に説得し、韓信は大将軍として働きます。

 

その後、数々の戦を知恵と勇気で乗り越え、漢を大国へ導いた韓信は、武将として影響力のある存在になります。

 

そして最終的には若いときにブラブラしていた頃食事を与えてくれた人に金銭でお礼をし、股下を潜れといったならず者たちには職を与えました。

 

この事から、「韓信の股くぐり」は、大志あるものは目の前の小さな事にとらわれず堪え忍ぶべしという格言になりました。

 

歌川国芳の作品は「心学推絵得(しんがくおさなえとき)」という連作のうちの一枚で、「ならぬ堪忍するが堪忍」という題名です。


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「心学推絵得」は、心学と呼ばれた道徳や教訓を子供に分かりやすく伝えた教材のようなものです。

 

 

 

ちなみに、その後の韓信はどうなったのかというと…

 

力を蓄えすぎた韓信は、漢王から恐れられるようになります。

そして色々な謀略のもと、謀反の罪で捕らえられ、殺されてしまいました…。

 

 

 

韓信は一時期、斉という国の領地を治め、漢や楚と戦える力かあるとき、部下から

 

「あなたは今漢を裏切って楚と組まないと、いつか漢王に殺されてしまう」

 

という忠告を受けます。

 

しかし、韓信はそれを

 

「漢の王にはいろいろ良くしてもらったから…」

 

と意見をはねのけたことがありました。

 

 

 

韓信の最期を知ると、韓信の人生から学ぶことは堪忍だけではないなあと感じた明石です。

 

 

きょうはここまで。

最後まで読んでいただきありがとうございました。

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