なぜ乳首をつまんでいるのか?魅力と謎あふれる浴槽の女性の絵画「ガブリエル・デストレとその姉妹」解説
今日も生きてます。
今日は節分ですね。季節の行事に疎い私ですが、お刺身は大好きなので恵方巻は美味しそうなものを奮発して買おうと思います♪
節分というと福は内、鬼は外、と豆を鬼に投げつける風習がありますが、以前フランス人の方が節分の風習を知った時に、「鬼…ワイフに投げるんだね!!!!」的なことを英語で言っていた場面に遭遇し、本当に外国人って洋画に出てくるアメリカンジョークみたいなこと日常でいうんだな~と思ったことがあります。
さて、今日は16世紀に描かれた「ガブリエル・デストレとその姉妹」という作品を見ていきます。
おめでたい!愛人の懐妊記念絵画
「ガブリエル・デストレとその姉妹」
作者不明(フォンテーヌブロー派の作家) 1594年頃
タイトルは『ガブリエル・デストレとその姉妹ビヤール公爵夫人とみなされる肖像』 とも『浴槽の2人の女』とも呼ばれるそうです。
上の作品はフランス王アンリ4世の愛人であるガブリエル・デストレが描かれています。乳首をつままれている方がガブリエル・デストレです。
ガブリエル・デストレ
左側の女性のモデルはガブリエルの妹であるビヤール公爵夫人または、バラニー元帥夫人であると考えられています。
ビヤール公爵夫人または、バラニー元帥夫人
フランス王アンリ4世の愛人であるガブリエル・デストレは絶世の美女であり、かつ聡明で知的な女性であったそうです。
「ガブリエル・デストレ」作者不明
「Henry IV, King of France in Armour」フランス・ポルビュス 画
出典:File:Henry IV of france by pourbous younger.jpg - Wikimedia Commons
「ガブリエル・デストレとその姉妹」の中で二人の女性がしている謎行為、乳首をつまむしぐさは、初乳をうながす行為です。
この絵画は愛人のガブリエル・デストレが長男を懐妊したこと描いた作品です。子どもを多く産むことができる女性であることを示唆しているとする見解もあるようです。
暖炉の上に飾られている絵画は男女が戯れているもの。
絵画の下にある暖炉の炎は王とガブリエルの愛情と情欲の証
奥で何かを編んでいる女性はやがて産まれる子供のために編み物をしている女官です。
よく見ると、描かれたガブリエル・デストレは左手で指輪をつまんでいます。
このしぐさは、王と結婚することを望んでいるという自らの意思を表しているともいわれています。
2人の女性が入っているバスタブは、寒さを防ぐために光沢のある赤いシルクのカーテンで覆われており、バスタブの中にも、大理石の冷たさを和らげるために薄い布が敷かれています。
描かれたガブリエル・デストレは、フランス王アンリ4世の愛人でしたが、相当気に入られていたようです。アンリ4世との子供を3人産んでいます。
そのころアンリ4世には正妻マルグリット・ド・ヴァロワもいましたが、政略結婚であったこともあり、夫婦の仲は冷え切っていて子供もいませんでした。それぞれが多数の愛人を囲っていたそうです。
マルグリット・ド・ヴァロワ、レーヌ・ド・ナバール
(ヴァロワのマルグリット、ナバラの女王) フランソワ・クルーエ画、16世紀
出典:File:Margot.JPG - Wikimedia Commons
1599年、アンリ4世はガブリエルとの再婚をしたいとマジで考え、教皇庁に現在の妻であるマルグリットとの結婚の無効を申請します。
しかしガブリエル・デストレは突如として重病にかかり、4人目の子供である男児を死産します。ガブリエルは26歳の若さで亡くなってしまいました。
フォンテーヌブロー派とは?
「A Lady in Her Bath」
フランソワ・クルーエ 画1571年
出典:File:François Clouet - Diane de Poitiers - WGA5071.jpg - Wikimedia Commons
「ガブリエルh・デストレとその姉妹」の作者を見てみると、「フォンテーヌブロー派の画家」と記されています。
フォンテーヌブロー派とは何かというと、フランス・ルネサンス期に宮廷で活躍した画家のグループです。
もともとのきっかけは、フランソワ1世がフォンテーヌブロー城にレオナルド・ダ・ヴィンチなどの有名なアーティストたちを招いたことです。
そして招かれた作家たちにより形成されていった派閥をフォンテーヌブロー派です。フランス近代美術の起点となりました。
フランソワ1世(フランス王)
ジャン・クルーエ画
出典:File:Francis1-1.jpg - Wikimedia Commons
フォンテーヌブロー派には名前が残っていない画家もおり、「ガブリエル・デストレとその姉妹」を描いた作家も名前が残っていません。しかしこの作品は有名で様々引用されているようです。
匿名の画家、1600年から1625年
「Dam vid sitt toalettbord」
フランソワ・クルーエ (1510–1572) 1559年頃
出典:Category:École de Fontainebleau - Wikimedia Commons
School of Fontainebleau master
出典:File:Gabrielled'EstreeswithaSister.jpg - Wikimedia Commons
フォンテーヌブロー派の画家、女性の肖像画
出典:Category:École de Fontainebleau - Wikimedia Commons
最後の作品は乳首の描写に違和感(笑)
フォンテーヌブロー派の画家は身体の表現が現実に忠実というよりは、デフォルメされていますよね。
それは美術の様式の中では16世紀のイタリアにあった「マニエリスム」という様式の特徴でもあります。身体を引き伸ばしような表現が特徴の一つです。
最初フランソワ1世が招いたイタリアの画家たちに、マニエリスムの様式で表現していた作家がいました。なのでそのアーティストたちをきっかけに形成されていったフォンテーヌブロー派も、フランスでその特徴を受け継いでいます。
今日はここまで。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
参考:
「あやしいルネサンス」(池上英洋さん、深田真里亜さん著、東京美術)