楽園にいる手足のある蛇の謎ー見えないものをどう描くか?画家の試行錯誤の結晶(作品)①ー
今日も生きてます。
西洋美術は聖書をもとにした作品多いですよね。
テレビも写真も無かった時代、絵画は文字が読めない人々に聖書の内容を示すためのメディアという側面がありました。
しかし聖書の中に登場するのは、神様、天使、悪魔など…おそらく大多数の人がその姿を見た事が無いだろうというような存在です。
比喩的な表現もあるかもしれませんが、文字に書けるが視覚的には一体どう表現するんだい?というような外見のものもいます。
例えば、エデンの園の中で命の木、知恵の木を守っている天使ケルビムの外見は、旧約聖書の中で↓のように書かれています。
エゼキエル書1章によるとケルビムの姿は
「その中には四つの生き物の姿があった。
それは人間のようなもので、それぞれ四つの顔を持ち、四つの翼をおびていた。
…その顔は“人間の顔のようであり、右に獅子の顔、左に牛の顔、後ろに鷲の顔”を持っていた。
…生き物のかたわらには車輪があって、それは車輪の中にもうひとつの車輪があるかのようで、それによってこの生き物はどの方向にも速やかに移動することができた。
…ケルビムの“全身、すなわち背中、両手、翼と車輪には、一面に目がつけられていた”(知の象徴)…
ケルビムの一対の翼は大空にまっすぐ伸びて互いにふれ合い、他の一対の翼が体をおおっていた(体をもっていないから隠しているという)
…またケルビムにはその翼の下に、人間の手の手の形がみえていた(神の手だという)」とされている。
もう全く想像がつかないですよね。
常人ならざる感じだけは伝わります。
もし皆さんが画家で、依頼主から「ケルビム描いてください」と言われたら、どうしますか?
私だったらこんなケルビムの設定複雑にしたやつ誰なんじゃい!と若干恨みつつ苦悩します。どういうものを依頼主が求めているかも悩みどころです。
↓はWikipediaにあったケルビムの絵です。
出典:Category:Cherubs - Wikimedia Commons
聖書に書かれていたケルビムの特徴的な外見をおおよそ抑えてますね。
ただ全身に目があるという特徴を絵として描くのは難しいようです。(細かいしね)
このように日本の神話でもそうですが、聖書などの物語にでてくるキャラクターって文字にはできるが視覚的に表現するにはハードル高いものがあります。
画家は文字を頼りにイメージを作り上げます。この世で見た事が無いキャラクターなのでいろいろなアイデアを取り入れてどうにかして表現しています。
今日はそんな画家がひねり出して(?)生み出した個性的な「異形モノ」が描かれた絵画を見ていきましょう。
ヒューホ・ファン・デル・フース画
「原罪」
出典:あやしいルネサンス((池上英洋さん、深田真里亜さん著、東京美術)
旧約聖書に出てくる最初の人間「アダムとエヴァ」を描いた作品はたくさんあります。
上の作品も楽園にいるアダムとエヴァを描いたものです。
題名にある「原罪」とは、楽園で何の不自由もなく暮らしていた人間アダムとエヴァが、神様から絶対食べちゃダメだよと言われていた知恵の木の実を食べてしまい、人間の男性は働く苦しみを、女性は産むときの苦痛を与えられて楽園から追放されたことです。
なぜアダムとエヴァが食べちゃダメだよと言われていた知恵の木の実を食べてしまったかというと、楽園にいた蛇がエヴァに美味しいからお食べと誘惑したためです。知恵の木の実を食べたエヴァは美味しいよとアダムにも勧めて二人でそれを食べてしまいました。
ちなみに知恵の木の他に生命の木も楽園にはありますが、二つの木の実を食べると永遠の命を得ることができます。楽園からアダムとエヴァを追放した神様は、人間が生命の木に近づけないように、天使にその木までの道を守らせます。
その天使こそ最初に紹介したケルビムです。
さて、上の作品の話に戻ります。
原罪のエピソードを描いた作品で描かれるのはアダムとエヴァと知恵の木と蛇です。この作品で描かれているのは…
蛇?とは少し違うような形態の生き物です。
手足もついているし、そもそも頭が人間です。私の感覚が独特なのかもしれませんが、なんか小さいしかわいく思えてしまいます。(現実にいたら気持ち悪いのでしょうか)
比較として他の作家のアダムとエヴァを描いた作品を見てみましょう。
「アダムとエバ」
「アダムとエヴァ」
出典:Category:Adam and Eve - Wikimedia Commons
二枚ともエヴァの近くに木にくるりんとまとわりついている蛇が描かれています。あと関係ないけど人類の起源となるの男女って美男美女なんですね。神様ナイスセンス。
話は戻りますが、最初に紹介したヒューホ・ファン・デル・フースの蛇に手足がついているのは聖書の記述が由来していると思われます。
神様はアダムとエヴァを楽園から追放した後、蛇にも罰をくだします。
それは地を這って生きることでした。
これを読むと画家的には、神様が罰をくだした後の姿が現在のにょろーんとした紐のような姿であり、その前にはまた別の姿であったということです。
そして蛇がアダムを誘惑した時というのは罰が下される前の姿ですので、その姿を絵に描くのが必然ということです。
そしてここに謎が生れます。
蛇ってもともとどんな姿だったのか?ということです。
もともとは翼が生えていたかもしれないし、四足歩行だったかもしれない。でも現在の姿は紐だし、にょろーんとした趣も残した方が良いのか…
ここは悩みどころですね。
この人間の首にカワウソのような生き物はヒューホ・ファン・デル・フースが悩んだ末行きついた蛇の昔の姿です。
神話とか聖書って謎な部分多いですが、そういうところが想像の余地があって面白い部分でもありますよね。
蛇の昔の姿…私だったら長い耳を生やして白い毛を生やして四足歩行ジャンプする赤い目の…動物として描きますね。
ウサギですね。
今日はここまで。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
参考:あやしいルネサンス((池上英洋さん、深田真里亜さん著、東京美術)