リアル絵描き日記

画家明石恵のブログです。

最後の晩餐って何を食べてるんだろうか。

今日も生きてます。

 

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宮下規久郎さんが書いた「食べる西洋美術史ー最後の晩餐から読むー」を読んでいます。西洋の絵画に描かれた食べ物にクローズアップしている内容の本です。

 

いろいろな美術に関係する本を読んでいて思うのが、美術の歴史は教科書に載っている一つだけではなく、数ある美術作品の中からどこをつなげてみていくかで、いろいろな歴史や意味・価値を見いだすことができることです。新しいマイ美術史を作り出すことができるのです。

 

「食べる西洋美術史」の著者・宮下規久郎さんは、画家のカラヴァッチョの本をたくさん書いているイメージ。「食」という身近なテーマも書かれるのかと意外でしたが、中身は真面目に絵画の食べ物について書かれていて面白いです。ちょいちょい先生の個人的な食べ物に対する感想も在り、そこも良いアクセントになっていて楽しく読めました。

 

本中で最後の晩餐について描かれていたので、今日は最後の晩餐について書きたいと思います。

 

 

〇最後の晩餐はどのような会であったのか

 

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↑は有名なレオナルドダヴィンチの「最後の晩餐」。

 

そういえばキリストと弟子たちは、どうして晩餐を開いたのでしょうか。

 

キリストと弟子たちが集まった日は「過越祭」(すぎこしさい)

ユダヤ人のお祭りで、食事としては子羊とふくらし粉の入っていないパンを食べてお祝いする日だそうです。

 

聖書の中でキリストは「パンは私の体」「ワインは私の血」であるとして弟子に分けました。これ以降キリスト教ではパンとワインを食べるミサを執り行うようになります。最後の晩餐の絵はミサの起源の場面を描いたものでもあるそうです。そして西洋で食事=神聖なものという思想が生まれます。

 

 

 

 

 

〇いろいろな最後の晩餐で何を食べているかを見てみよう

 

 

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「最後の晩餐」ラヴェンナ・サンタポリナーレ・ヌオーヴォ聖堂、6世紀初頭

 

↑は6世紀初頭に制作された壁画です。

こちらの最後の晩餐には、皿の上に大きな魚が二匹載っています。古代ローマの禁教時代、魚はイエスを表す暗号でした。ギリシア語で、「イエス・キリスト・神の・子・救いの主」の頭文字をとると魚を意味する単語になるのが由来です。

 

 

 

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「最後の晩餐」ローマ・サンタンジェロ・インフェルミス聖堂、11世紀後半

こちらの最後の晩餐には、テーブルの上に大きな鳥料理が!

その料理に一人だけが手を伸ばしています。この人は裏切り者のユダであることを表しています。

 

キリスト教には断食する期間があり、その期間中肉を食べてはいけませんが、魚は食べても良いそうです。ここから魚は精進料理的な地位になります。そしてそんな魚に対して、肉=悪というような捉え方も生まれます。

 

なのでこの作品では、裏切り者のユダは肉料理に手を伸ばしているのでしょう。

 

 

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「最後の晩餐」ローマ、ヴォルゲーゼ美術館、1542年。

 

↑の最後の晩餐の作品では、お皿に羊の頭が乗っています。お皿はキリストの前に置かれてます。中世で宴席の席では動物の頭は宴席の長にふるまわれる習わしがあったそうです。

 

 

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ティントレット - 不明, パブリック・ドメイン, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=279062による

ティンレット「最後の晩餐」ヴェネツィア、サン・ジョルジュ・マッジョーレ、1592年ー94年

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今までの簡素な晩餐と違い、上の作品では様々な食事がテーブルの上に並んでいます。ワイン、肉料理、パイ(?)の料理…こんな晩餐会だったら御呼ばれしたいですね。今までの作品はキリストと弟子だけの絵が多かったのですが、上の作品ではたくさんの働く使用人も描かれています。

 

 

 

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バロッチ「使徒たちの聖体拝領」ローマ、サンタ・マリア・ソプラ・ミネルヴァ聖堂、1603年ー07年

 

厳粛な雰囲気です。キリストが、頭を下げてる弟子たちの頭に順番に生態を与えている

キリストが頭を下げている弟子たちに順番に聖体(パン)を与えています。

 

最後の晩餐からパンとワインを分け与えるミサがはじまりましたが、このミサは聖体拝領や、聖餐式とも訳されました。

 

 

 

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プッサン「最後の晩餐」エディンバラスコットランド国立美術館、1644年ー48年

寝っ転がって古代ローマ風な宴会です。

しかし、ただご飯を食べる風景というより、厳かな雰囲気が強調されています。

キリストのジェスチャーは、お盆をもち、これが聖体で自分の体であることを強調しています。

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日本ではあまりご飯を食べている最中を描いた作品は西洋に比べると少ないそうです。西洋では聖書の内容から食事が神聖な儀式という側面が強調されていったようです。

 

続く。

 

 

今日はここまで。

最後まで読んでいただきありがとうございました。

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驚異の部屋ー珍品コレクションを楽しむー

今日も生きてます。

 

8月ですね。

夏は好きです。

 

図書館で本を借りてきました。

 

黒田清輝の本を借りに行ったのに、結局黒田清輝の本を一冊も借りずに帰ってきてしまた…。私っておバカだな。

 

借りた本の一冊に荒俣宏さん著の「アラマタ珍奇館」(集英社)があります。

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荒俣さんのコレクションの中で面白いものを紹介するといった内容のものです。以前人魚のミイラについて調べていた時に、荒俣さんが外国で購入して帰ってきた人魚のミイラを、当時結婚していた妻に気味悪がられ捨てられてしまったというような話をラジオで聞いたことがあり、荒俣さんの家の中にはいったいどんなものがコレクションされているのかと興味を持っていました。

(人魚のミイラは大抵猿の上半身と魚の下半身(?)をつなぎ合わせた物なので、決して美しいと思えるような代物ではないと思います。)

 

この本には「ヴンダーカマーの快楽」という副題がつけられています。ヴンダーカマーはドイツ語で、日本では「驚異の部屋(きょういのへや)」とも呼ばれるようです15世紀から18世紀にヨーロッパのお金持ちの間で流行した、様々な珍品を集めた博物陳列室です。超簡単に説明すると珍品コレクション部屋ですね。

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オレ・ウォルムの「驚異の部屋」

 パブリック・ドメイン, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=85201879により引用

 

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17世紀初めナポリのフェッランテ・インペラートの「驚異の部屋」

(Anonymous, for Ferrante Imperato) - http://www.ausgepackt.uni-erlangen.de/presse/download/index.shtml, パブリック・ドメイン, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=9172105により引用

 

その特徴は分野を隔てず一所に取り集められることです。後の時代には廃れていきましたが、今の博物館の前身となりました。

 

Wikipediaコモンズの驚異の部屋に関係する画像が面白い…。(※だが詳細は不明)

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LSH 94991 (sm_dig5421), パブリック・ドメイン, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=36825584により引用

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CC0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=57851266により引用

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CC0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=57851266により引用

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不明 - LSH 95008 (sm_dig5438), パブリック・ドメイン, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=36892273による

 

 

 

 

荒俣さんによると、日本にもヴンダーカマーに似たものがあったらしいのです。

その名も「耽奇会」。

この会は会員が月一回、おのおの珍品を持ち寄り鑑定し合うというものです。あやすぃ。文政7年の5月から翌年の11月まで開催されました。

メンバーには谷文晁や曲亭馬琴など、後世に名を残す有名人も参加しています。

 

(谷文晁は画家。以前ブログでも取り上げました。→谷文晁 - リアル絵描き日記曲亭馬琴南総里見八犬伝などを書いた人気作家。)

 

コレクション資料はなんと復刻出版されているそうです。資料の名前「耽奇漫録」がなんだか気になる。

 

その後耽奇会の志(?)を継ぐものたちが昭和の時代にも「新耽奇会」を開催していたそうです。

 

場所も時代も越えて、珍品を愛する人間は存在するんですね。

 

アラマタ珍奇館のなかで私が気になった荒俣さんのコレクション↓↓↓

 

 

ミステリークロック

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文字盤と胴体が透明な時計。一体どうやって時を刻んでいるのか…。

 

 

 

文字書きピエロ

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ゼンマイで動くからくり人形 

 

 

 

ジェニー・ハイバー

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怪物の標本。するめっぽい…(口に入れたくはない)。

実際はエイの干物からつくられたもののようだ。 

 

 

明治の看板衝立

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井出らっきょうの看板らしい。ぱっとみ、怪しい薬の看板だと思いました。20万円程で購入されたそうです。

 

 

フランケンシュタイン手つき本

 

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フランケンシュタインの本。

内容に合わせて装丁をここまで凝ったものにするなんて…世界観を大事にする姿勢に明石はロマンを感じました。

 

 

 

コオロギ入れ

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荒俣先生が上海に行ったときに見つけた物らしいです。

ムシキングのように自身の持つコオロギを相手のコオロギと競わせる文化があるらしく、コオロギも販売されているが、そのコオロギを入れる器も販売されていたらしい。面白いです。

 

 

 

龍の連凧

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 中国には多種多様な凧があり、中でもこの凧は素晴らしく、制作者に譲ってもらえないか交渉したものらしい。

確かに大きくて顔可愛い。

面白いのは荒俣先生がこの凧を(日本円で)三万円で譲ってほしいと持ち掛けたときに、制作者は半年がかりでつくったからヤダと断ったそうですが、その金額をきいた制作者の兄が弟を殴って凧を奪い、荒俣先生に譲ってくれたという話。

 

「弟は涙ぐんでいた。不憫だが、収集のためだから、許せ。」

 

という一文がウケました。

 

 

 

 

 

 

私は執着して集めているものが無いので(制作の資料になりそうなものは手元にとどめるようにしている)、コレクターの気持ちはなかなか理解できないのですが、本の中で

 

「もう四十年近く奇書集めをしていると、自然に狙いどころが変化してくるのが分かる。別に移り気や浮気ではない。これまで関心のなかった分野がいきなり自分の守備範囲に割り込んでくると珍しいので目がそっちへ行くだけのことである。」

 

という文があり、狙いどころ・守備範囲などという言葉から少しコレクターの感覚を知ることができました。(自分の集める分野は守備なんだな…では攻撃は…?)

 

 

今日はここまで。

最後まで読んでいただきありがとうございました。

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鍋の妖怪?合羽の妖怪?道具の妖怪大行進「百器夜行絵巻」をみよう!

今日も生きてます。

 

今日は妖怪最終回です。

 

これまで妖怪の姿かたちがどのように始まり、変わってきたかを見てきました。

 

妖怪のはじまり①ー妖怪絵巻をみてみようー - リアル絵描き日記

妖怪のはじまり②ーいろんな妖怪絵巻をみてみようー - リアル絵描き日記

妖怪のはじまり③-妖怪絵巻の変遷ー - リアル絵描き日記

 

簡単に復習です。

妖怪の姿かたちは、最初絵巻物の中で怪異が描かれたことから始まりました。

 

 

絵巻物の中に怪異が描かれるようになると、怪異そのものをテーマにした絵巻物も登場します。

 

 

夜に妖怪たちが現れ始め行進し、日が昇るとともに消えるという物語性のある妖怪絵巻が数多く制作されるようになります。

 

↓ 

 

現在残されている多数の絵巻物を内容の特徴に合わせて分けると四種類に分けられます。これは妖怪絵巻が模写して制作されていて、元となる元本は四種類あったためと思われます。

 

この四種類は、代表的な絵巻の所蔵元の名前から、

 

1真珠庵本

2国際日本文化研究センター

3京都市立芸術大学

4兵庫県立歴史博物館本

 

の四種類に分けることができます。

 

 

そして妖怪絵巻はだんだん物語の要素が無くなっていきます。今までの妖怪絵巻になかった妖怪個々の名前が記されるようになり、妖怪図鑑の趣が出てきます。

 

 

 

今日は妖怪絵巻といっても身の回りの日用品の妖怪を見ていきます。

 

身の回りの様々なものが妖怪になって行進していく様子が描かれている絵巻物に「百器夜行絵巻」があります。このように、身の回りのものに人智を超えたものが宿るという考え方の背景には、「付喪神」が関係あると言われています。

 

〇『付喪神絵巻』

 

付喪神とは、道具が100年という年月を経ると精霊を得るというもの。「つくも」とは、「百年に一年たらぬ」=「九十九」(つくも)のことであるとされます。

 

付喪神という言葉は知っている人は知っていると思いますが、付喪神がテーマの絵巻物『付喪神絵巻』の存在を知っている人は少ないかもしれません。

 

付喪神絵巻』のあらすじ↓

人々は「煤払い」と称して毎年立春前に古道具を路地に捨てていた。廃棄された器物たちが腹を立てて節分の夜に妖怪となり一揆を起こすが、人間や護法童子に懲らしめられ、最終的には仏教に帰依をする

付喪神絵巻 - Wikipediaより引用

 

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付喪神繪 江戸時代 絵の部分を抜粋

 

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付喪神繪 江戸時代 絵の部分を抜粋

画像は国立国会デジタルコレクションより引用

 

 

これは妖怪の話ではありませんが、捨てられた道具たちが擬人化(?)されていく様子も面白いですね。今よりも道具が貴重で、大事なものであったからこそこのような話も生まれたのでしょう。現代の物で百年持っているものって無いですよね。

 

 

 

 

さて、道具・器物の妖怪大行進を描いた「百器妖怪絵巻」も見ていきましょう。

 

 

 

〇百器夜行絵巻

兵庫県立歴史博物館所蔵

 

 

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ひな人形の三人官女が持っている

「提下」「三方」の妖怪

 

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「銚子」「白容裔(しろうねり:台所などで使われた手ぬぐいや布巾)」の妖怪

 

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「花瓶」「鼓」の妖怪

 

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「竹箒」「薬研」の妖怪、薬(?)の妖怪もいる

 

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タンスから蛇、龍が出てきている

「杵」「箕(み:竹でできたザル)」の妖怪

 

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「香炉」「燈台」「味噌漉し」「擂鉢」の妖怪

 

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「天狗」「法螺貝」「茶臼」の妖怪

 

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「分銅」「薪」「砧」「枕」の妖怪

 

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「糸車」「火桶(に布がかかっているのでこたつでもある)」の妖怪

 

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「袴」「帯蛇」「角盥」「桶」の妖怪

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〇百器夜行之図

真田宝物館蔵

江戸時代に狩野乗信が制作した絵巻物。

怖いというよりも楽しい妖怪が数多く描かれています。

 

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青鬼、赤い妖怪(?)、壺の妖怪、蛇、一つ目の猫、背中に目のついた蛙

 

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制服を着た妖怪

 

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僧侶の恰好をした如意の妖怪、目玉のついた銅拍子の妖怪、扇子と鳥兜の妖怪、笛と斧の妖怪、巫女姿の妖怪、鰐口、木槌の妖怪

 

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すり鉢、鍋の妖怪。

 

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五徳、木槌、鼓の妖怪。白い謎の妖怪。太鼓の妖怪、山伏の法螺貝。

 

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絵巻物は鶏が朝日を告げて終わりです。

 

 

 

 

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自分の家にあるもの、見たことある道具、全部妖怪にしてやったぜ!という達成感すらも感じることのできる絵巻物ですね。古いものを写して制作された絵巻物も多いですが、狩野乗信の絵巻物は新しく考えられたものが多く掲載されています。

 

この絵巻物がつくられた同時代の人からすると、見覚えのあるあの道具がこんな妖怪になっているという鑑賞の楽しさがあったと思われます。現代の私たちからすると、こんな道具使っていたんだな~という感じで鑑賞できますね。

 

現代版、百器夜行絵巻があったらどうなるでしょうか。

ルンバの妖怪とか。

 

 

今日はここまで。

最後まで読んでいただきありがとうございました。

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妖怪のはじまり③-妖怪絵巻の変遷ー

今日も生きています。

 

前回前々回と妖怪絵巻についてみてきました。

akashiaya.hatenadiary.jp

akashiaya.hatenadiary.jp

 

ざっと復習です。

 

妖怪の姿かたちは、最初絵巻物の中で怪異が描かれたことから始まり、絵巻物の中に怪異が描かれるようになると、怪異そのものをテーマにした絵巻物も登場します。

そして夜に妖怪たちが現れ始め、行進しだし、日が昇るとともに消えるという物語性のある妖怪絵巻が数多く制作されるようになります。

 

現在残されている多数の絵巻物を内容の特徴に合わせて分けると四種類に分けられます。これは妖怪絵巻が模写して制作されていて、元となる元本は四種類あったためと思われます。

 

この四種類は、代表的な絵巻の所蔵元の名前をから、 

1真珠庵本

2国際日本文化研究センター

3京都市立芸術大学

4兵庫県立歴史博物館本

 

と称されます。

 

さて、今日も妖怪絵巻を見ていきす。

 

 

 

 

百鬼夜行絵巻

(京都府市総合資料館蔵/京都文化博物館管理)

 

妖怪たちが突如夜に現れて行進する物語は他とあまり変わらない内容です。

妖怪それぞれに名前が書かれている点が特徴です。興味がそれぞれの妖怪の個性(?)へ移っていることがわかります。

 

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真珠庵本とは少し違う妖怪の配列をしてる。

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仏具の妖怪たち

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たらいの妖怪

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たんすや、薬研から妖怪たちが這い出ています。薬に関係ある妖怪だと思われます。

 

 

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ここで赤い球が出てきて絵巻は終わります。

 

 

 

百鬼夜行絵巻

松井文庫蔵

 

天保年間に制作されたとされる絵巻。

様々な妖怪は全く無関係に並べられ、それぞれに名前が書き込まれています。

その数なんと58種類。

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海座頭

琵琶法師に由来すると言われています。江戸時代では座頭が恐れられていたことから妖怪に見立てられたという説もあるようです。

ボロボロの袴を履いて杖をつきながら海夜を徘徊する妖怪らしい…無害!

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牛鬼

清少納言枕草子にその名が掲載されている由緒正しい妖怪。シンプルに牛の姿の鬼。

獰猛な性格で、しばしば人や家畜を襲って食べると言われています。

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見越入道

巨大な僧の妖怪。

見上げれば見上げるほど大きくなる。

いたちや狐が化けたものと言われている。

 

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ひょうすべり

茄子が好物で、頭ははげて、体毛は濃い。

ユーモラスなポーズをとる…無害!(というか妖怪ではなくおじ様なのでは?)

 

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ぶかっこう

蛇の化身。詳細は不明。

個人的にかわいい。

 

 

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撫座頭

詳細は謎。

 

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後眼

後頭部にひとつ目があり、手のさきには鋭い爪がひとつだけある。

 

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野狐

狐の憑き物。

この妖怪にとりつかれることを野狐憑(やこつ)きと呼んだ。

 

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幽谷響(やまびこ)

こだまを起こす山の神・精霊・妖怪。

 

 

 

 

 

〇化物尽絵巻

国際日本文化研究センター

 

江戸時代末期、北斎季親という絵師が描いたとされています。上の絵巻たちよりもより図鑑のように妖怪が羅列されています。

 

絵巻物だけではなく、絵画や書物でも図鑑的なものが制作されるようになります。

背景には、江戸時代中期以降、西洋の医学・科学が導入されたことがあります。様々なものを収集・観察・体系化していく姿勢が、妖怪にも適用されました。

 

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・親白眼は後眼と同じと思われる。

・大地打は金槌坊と同じと思われる。

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・右端の妖怪はどうもこうもという妖怪。

・人間のどうもこうにもならない状態だとか。

・さら蛇

・身の毛立つはじゅうじゅう坊とも呼ばれる

・むささびっぽいのは「のぶすま」、「ヤマアラシ」とも呼ばれる。

 

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・馬鹿(うましか)

・はじつかき

恥ずかしいと思う感情が凝縮して妖怪となった中国の妖怪がモデルとされる

 

 

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・おどろし

・夢の精霊

・山姥

 

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・犬神

人間に殺された恨みを持つ犬の怨霊

・ろくろ首

 

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・亡魂は、幽霊とも言われます。

・牛鬼は、土蜘蛛ともいわれます。

 

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・山童

一説では山に移ったかっぱとも言われる。

・ぶらり火

犬の顔した鳥

 

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・うわん

名前は叫び声が由来と思われる。

・赤舌、別名赤口

口の中が赤い。(あれ普通?)陰陽道で人々に災いをもたらす神「赤舌神」がルーツと言われる。

 

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・雪女

・きつね

・猫また

 

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・髪きり

夜道でこっそり人の髪を切る。地味に有害!

 

 

 

 

 

妖怪絵巻は当初あった妖怪の行列という物語性を失い、妖怪図鑑のようになっていきました。

描かれる妖怪も個性的になり、最初の頃よりも怖く描こうと言うよりも、面白く描かれている気がしませんか?

 

今日はここまで。

最後まで読んでいただきありがとうございました。

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妖怪のはじまり②ーいろんな妖怪絵巻をみてみようー

今日も生きてます。

 

 

前回に引き続き妖怪絵巻を見ていきましょう。

 

 

〇 「吉光百鬼ノ図」(国際日本文化研究センター)

 

江戸時代前期につくられた摸本で、元にした原本は室町時代まで遡ると言われています。前回の真珠庵の絵巻の妖怪は道具が元となっているものが多くあります、「吉光百鬼ノ図」の妖怪は動物・魚介など、多種多様なものが元となっています。

 

 

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天狗の妖怪

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龍の頭をした亀に乗る蛙の妖怪

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頭にカタツムリ(?)をのせた妖怪

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法具の如意が化けたトンボ

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貝稚児

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サザエの妖怪

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白布

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口避け女のような妖怪

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鏡を見て鬘を被る妖怪(能面?)

妖怪もヘアスタイルを気にするのかな

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狐の妖怪

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赤鬼

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白い晒しの妖怪(顔は龍)

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角盥(つのだらい)の妖怪

角盥は漆塗りの洗面道具で宮中などをはじめ女性の用いていた道具のひとつ。

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臼の妖怪…血(?)が溜まっています。

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台車を引く猪の妖怪

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半挿(はんぞう)の妖怪

半挿とは、湯水を注ぐための器で、その柄が半分器の中にさしこまれているもの。 らしいです。

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骸骨の妖怪

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石製の五輪塔の妖怪

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木製の五輪塔の妖怪

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虎と狼が僧侶の恰好をしている妖怪

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振り返る蛙の妖怪

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黒煙が黒曇になります。

そして不気味な妖怪の姿になります。

この煙から今までの妖怪は逃げていきます。

 

 

 

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渦巻く黒い煙の中に稲妻が光ります。

 

 

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 黒いシルエットが悪魔的なものの姿に…

真珠庵の妖怪絵巻では日が昇って終わりますが、この妖怪絵巻では日は昇らずに、この黒い雲の場面で終わります。

 

 

 

 

 

百鬼夜行絵巻(兵庫県立歴史博物館蔵)

真珠庵と、国際日本文化研究センターが所蔵している妖怪絵巻を掛け合わせたような内容になっています。そのため妖怪の数がたくさん描きこまれている妖怪絵巻です。

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前触れなく妖怪たちの行列が始まります。

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釜と蓋の妖怪

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仏具の妖怪が列をなしています。

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ハリネズミの妖怪

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巨大な葛籠(つづら)の中から妖怪が飛び出しています。

 

ハサミの妖怪

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ナマズの妖怪

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何かからおびえる妖怪たち。

 

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突然現れる赤い円。

朝日なのか?

 

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 朝日の後には黒いシルエットで何やら怖いものたちが…

ここで絵巻物は終わります。

 

 

妖怪が描かれた絵巻物「百鬼夜行絵巻」は全国で60以上の諸本が確認されています。

それらを内容によって分けると

 

1真珠庵本

2国際日本文化研究センター

3京都市立芸術大学

4兵庫県立歴史博物館本

 

の4種類に分類されます。

 

 

 

 

百鬼夜行の図(西尾市岩瀬文庫蔵)

幕末から明治初期に描かれたとされる作品です。

今までの絵巻物と物語は違い、絵巻の右側から妖怪軍団が攻め寄せ、絵巻物の左側から鍾馗の軍団が迎え撃つという内容です。

鍾馗は中国由来の縁起がいいとされている神様のような存在です。以前ブログで取り上げました。

akashiaya.hatenadiary.jp

 

この作品には他の妖怪絵巻には見られない新しい妖怪を多く取り入れています。

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百鬼夜行絵巻〈す本〉(国立国会図書館蔵)

江戸時代中期の摸本。

国会国立図書館には〈す本〉〈亥本〉二種類の百鬼夜行絵巻があります。画像は〈す本〉のもの。この絵巻物の特徴は、冒頭に百二十二行に及ぶ詞書です。絵巻物に描かれる妖怪絵巻の物語が書かれています。

 

簡単にあらすじ

治承年間の末、荒廃した京都が舞台。

主が去ったとある屋敷で、留守番の老人を訪ねる客がある。

談笑は夜中まで続きます。

丑三つ時になると不思議な声と共に妖怪たちが屋敷の奥から出てきて行列をなす。

しかし夜明けとともに妖怪は逃げ惑い、消えてしまいます。

 

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最初は名もなき妖怪たちがただ現れて列をなすだけであった妖怪絵巻ですが、後の絵巻物では変化がみられます。

 

 

今日はここまで。

最後まで読んでいただきありがとうございました。

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妖怪のはじまり①ー妖怪絵巻をみてみようー

今日も生きてます。

 

蒸し暑い日が続いてますね。

これぞ日本の夏。

 

わたしはあまり外出せず、暑い思いをあまりしないせいか、四季の中で夏は一番好きです。

 

 

 

さて、今は『絵巻物に描かれた「闇」に蠢く妖怪たちー百鬼夜行と魑魅魍魎ー』(洋泉社MOOK)を読んでいます。


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現代で妖怪の第一人者のイメージは、漫画家の水木しげるさんですよね。

(そう思うのは私だけでしょうか。)

 

ゲゲゲの鬼太郎はアニメ化されて今年の三月辺りまで(記憶は曖昧)放送されてましたし、水木しげるさんの故郷である島根県では妖怪を前面に押し出した水木しげるロードなる観光地もあるようです。

 

調布は水木しげるさんの第二の故郷といわれています。なので鬼太郎をモチーフにし鬼太郎茶屋があります。こちらには行ったことがあり、以前ブログにも書きました。

鬼太郎茶屋、おすすめです。

百鬼夜行図ー妖怪を楽しむー - リアル絵描き日記akashiaya.hatenadiary.jp

 

 

 

 

他に妖怪と言うと、最近ブームが落ち着いた印象のある妖怪ウォッチがありますね。水木しげるさんの作品で妖怪の認知度が広まっていた土壌のなかで受け入れられたものなのかなあなんて思います。

 

 

実は江戸時代から庶民は妖怪に親しんでいたようで、一番有名な妖怪図鑑的なものを制作したのは鳥山石燕(とりやませきえん)です。

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鳥山石燕画図百鬼夜行』「河童」



 

 

水木しげるさんが描いた妖怪の中にも、この鳥山石燕の作品からインスパイアされたものもあると思われます。

 

「妖怪」自体はさらに前の時代から絵巻物の中に描きこまれています。今とは少し趣が違っていたようです。

 

ということで、今日は本を参照しながら妖怪が描かれた絵巻物についてみていきたいと思います。

 

 

 

 
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↑は本の付録についていた妖怪図鑑の中に掲載されていた妖怪の一人。解説には下のように記されています。

 

【ぬりぼとけ】

体の黒い仏の姿で、両目玉が飛び出している妖怪。手入れのしていない仏壇から現れて、自ら掃除をしたり、仏壇を拝む人を驚かしたりするほか、修行を怠る仏僧の前に現れて襲うなどといわれている。

 

 

 

掃除してくれるのか…なんだかお茶目な妖怪ですね。でもなぜ目玉が飛び出ているかは謎。ちゃんとお仏壇は手入れしておこう。

 

 

最初、このような妖怪に名前や特徴を紐づけた「妖怪図鑑」なるものはありませんでした。各地で語り継がれてきた妖怪たちは昔からあると思いますが、妖怪の姿かたちはいつ頃から生まれてきたのでしょうか。

 

 

〇妖怪の姿形の源

 

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「絵因果経」

(https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=57381092により引用)

 

日本の絵巻物の元祖は「絵因果経」(えいんがきょう)です。絵因果経は仏教の経典で、釈迦の過去生と、現世で仏陀になり、弟子を導くところまでが物語風に記されている巻物です。

 

この中には、怪異や魔物の姿が描かれています。

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絵因果経については過去にブログでも取り上げました。

akashiaya.hatenadiary.jp

 

 

 

この絵因果経をきっかけに、平安時代に絵巻物の文化が貴族の中で流行します。そして場面の一つに怪異や魔物が描かれるようになります。

 

絵の中に姿かたちを与えられた怪異たち…現代の妖怪の元となるものがこの時に生まれます。

 

「北野天神縁起絵巻」

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 By https://www.metmuseum.org/art/collection/search/45428, CC0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=79886366

 

「長谷雄絵巻」

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紀長谷雄朱雀門の鬼の双六勝負

 unknown (未詳) - scanned from ISBN 4-309-72475-2., パブリック・ドメイン, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=4809184による

 

その後その怪異や妖怪を主要のテーマとした絵巻も、鎌倉時代後期から南北朝時代から好んで描かれるようになりました。

 

「土蜘蛛草紙」

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『土蜘蛛草紙絵巻』(東京国立博物館所蔵、重要文化財

不明 - http://www.emuseum.jp/detail/100257/000/000, パブリック・ドメイン, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=18284867による

 

大江山絵巻」

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大江山絵巻(絵詞)』—逸翁美術館所蔵

大江山絵巻』 逸翁美術館所蔵, パブリック・ドメイン, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=8192289による

 

 

そしてさらに時代が下ると、妖怪たちのパレード(百鬼夜行)を描いた百鬼夜行絵巻」作られるようになりました。

 

 

 

 

 

 

〇妖怪のパレード「百鬼夜行

 


妖怪が描かれた絵巻は複数あり、中には内容が似ているものもあります。元となる数種類の絵巻物があり、それを参考に制作されたためだと思われます。

 

現存する妖怪絵巻の中で一番古いとされているのが、京都の大徳寺の真珠庵に所蔵される百鬼夜行図』(真珠庵本、土佐光信、室町時代)です。

 

 

妖怪絵巻に描かれるストーリーは特徴があります。

突如姿を現した妖怪たちが、日の出とともに解散するというものです。

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古びたお寺↑

 

 

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廃墟のお寺から続々と妖怪たちが現れてくる。

よく見ると縁の下の板の間に妖怪たちを見ている人間たちが居ます。

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「あわわ~」

「なんじゃこりゃ」

「えらいこっちゃ」

 

 

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ガマガエルが車を引いています。この車を朧車と言うようです。

中に顔の大きな天狗が乗っています。中世では最も影響力のある妖怪の一つで、仏教の妨げになる存在として説話文学に登場します。

 

 

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妖怪から逃げている木の擬人化っぽいのは木霊です。

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妖怪たちが演じられる田楽を見物しています。

 

 

琴の妖怪「琴古主(ことふるぬし)」

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琵琶の妖怪「棘琵琶(おどろびわ)」

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頭に貝を乗せている「貝稚児(かいちご)」

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白布を被る「白布」

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高杯の妖怪

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田楽を演じる妖怪たちです。

真ん中あたりに線で何か囲まれています。

これはこの作品の元となった作品が破損していたことを示していると推測されています。模写を忠実にしようとする絵師の几帳面さを感じます。

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画面奥から見えてくる丸いものは朝日。

日が昇ると妖怪たちは顔を隠して逃げ去っていきます。

 

 

少し長くなりそうなので続きは次回。

妖怪のことは知っていても、妖怪絵巻を具体的に見ることって意外に無いですよね。妖怪が夜中より集まり、日の出で解散するという物語も初耳です。

                                                                             

妖怪たちの特徴の一つは動植物から転じた妖怪 器物・道具が化けた妖怪が多く登場することです。これは日本人が古来から「万物に神あるいは仏が宿る」「八百万の神」が存在するという思想を持っていることによると言われているそうです。

 神がそこかしこにいるのであれば妖怪もいろんなものに宿るのでは?とい考え方ですね。

 

一神教の国には動植物や道具が妖怪のようなものになる例ないのかな…

 

 

今日はここまで。

最後まで読んでいただきありがとうございました。

 

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三顧の礼から見立ての表現を知る

今日も生きてます。

 

見立て絵シリーズも最後です。

 

何枚か見立て絵の作品を見てきて、浮世絵の中での「見立て」の表現が何となくわかってきました。

 

現代の感覚だと、オマージュやメタファーの表現に近いのかなと思います。

 

 

今日は三顧の礼の見立て絵を見ていきます。

 

 

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(Dai Jin - Zhongguo gu dai shu hua jian ding zu (中国古代书画鑑定组). 2000. Zhongguo hui hua quan ji (中国绘画全集). Zhongguo mei shu fen lei quan ji. Beijing: Wen wu chu ban she. Volume 10., パブリック・ドメイン, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=9489476による)

戴進(明の画家)による三顧の礼

 

三顧の礼については以前取り上げました。

三顧の礼 - リアル絵描き日記

 

故事成語として、「三顧の礼」は目上の人が格下の者の許に三度も出向いてお願いをすることを意味します。

 

もともとは後漢末期の184年に起こった大農民反乱:黄巾の乱で、一大軍勢を築いていた劉備が、格下でヤングの諸葛亮を軍師として口説くため、諸葛亮の家へ3度も訪れたことが由来となっています。

 

絵画として表現される場合は、家の前に訪れる三人の人間と、その三人と家の前で話す一人の人間、そして家の中の奥の方に一人人間が居る構図が多いです。

 

家に訪れる三人が劉備とその家臣

家の奥にいる人間がヤングの諸葛亮

家の前で三人を受け入れるのは子供です。

(諸葛亮のお手伝いさん的ポジションでしょうか。)

 

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頤和園の廊下に描かれた三顧の礼

shizhao (talk)拍摄,画者不明 - 投稿者自身による作品, パブリック・ドメイン, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=10640439による

 

 

 

 

そして三顧の礼をテーマにした見立て絵を見ていきましょう。

 

 

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勝川春扇「やつし玄徳雪中訪孔明

 

三顧の礼の定番構図なのでわかりやすいですね。

訪れる三人が女性に置き換えられて表現しています。

 

 

 

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歌川国貞「玄徳風雪訪孔明見立」

 

向かって一番右の女性は何か料理を運んでいます。

この作品では手前の三人が劉備たちを表現しています。

 

では小間使いっぽい子供と諸葛亮はどこ?と家の中を覗いてみると

 

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縮尺が少し納得いきませんが、中で食事をしていると思しき女性と子供がちっちゃく描かれています。

ここが小間使いっぽい子供と諸葛亮を表しているのでしょう。

 

 

日常の風景がテーマでも、見立ての表現を使用することで鑑賞者に謎解き(?)的な楽しさを提供しているのが嬉しいですね。

 

ちなみにこの作品の中の家(おそらく料亭っぽい)の看板に「雅流光」とありますが、これは諸葛亮が住んでいた家の名前「臥龍岡」に対応していると思われます。

 

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浮世絵は下絵を考える人と実際の作り手が作業分担されていたこともあってか、細やかなモチーフまで由来が考えられていますね。

 

鈴木春信の見立て絵の作品を知ってから見立てがよくわからないなあと思っていましたが、だんだん理解してきました。

 

今日はここまで。

最後まで読んでいただきありがとうございました。

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