お色気作戦?悪魔のリンチ?美女や悪魔に老人はなぜ襲われているのか。西洋版百鬼夜行「聖アントニウスの誘惑」の解説①
今日も生きてます。
ピーテル・クック・ファン・アールスト画「The temptation of St Anthony」
出典:File:Pieter Coecke van Aelst - The temptation of St Anthony.jpg - Wikimedia Commons
日本には「百鬼夜行」という、古来より絵巻物に何度も描かれた画題があります。
「百鬼夜行」に明確な話の筋はあまりないものの、日没からどこからか現れ始めた多種多様な妖怪たちがぞろぞろと行進し、日の出と共に消えてしまう、という流れがあります。
以前ブログでも百鬼夜行については取り上げました。
百鬼夜行では絵師が想像力を炸裂させて描いた妖怪たちを見ることができますが、今日はその百鬼夜行の西洋版ともいえる(?)「聖アントニウスの誘惑」という画題を取り上げます。
「聖アントニウス」とは誰?
修道士の生活や、修道院を初めて作った人ともいわれています。
聖アントニウスについては司教アタナシオス(295?-373)が書いた『聖アントニウス伝』の中で聖アントニウスについての生涯を知ることができます。
伝記によると、聖アントニウスは250年頃にエジプトで生まれます。敬虔な両親にキリスト教徒としての教育を受けたました。
20歳頃に両親が亡くなり妹と二人になってしまいます。
その後、神の声を聞いた聖アントニウス。
財産を貧しい者に分け与え、自らは砂漠に籠もり苦行生活に身を投じます。
305年頃にアントニオスが町で行った説教に心を打たれた修道僧らと開いたのが修道院の始まりです。
死ぬまで修行を続けたアントニウスは356年に105歳で亡くなります。
「聖アントニウスの誘惑」とは?
David Ryckaert III画「 The Temptation of Saint Anthony 」
出典:File:David Rijckaert (III) - The Temptation of Saint Anthony.jpeg - Wikimedia Commons
「聖アントニウスの誘惑」とは、アントニウスが苦行生活をする中で、悪魔が誘惑をしてきたことです。それは美女であったり、恐ろしい怪物の姿であったりします。
この「聖アントニウスの誘惑」は人気があったようで、たくさんの画家が絵のテーマにしています。老人が悪魔に襲われていたり、美女に取り囲まれてむふふな雰囲気だったりする絵は「聖アントニウスの誘惑」を描いている場合が多いです。
音楽では『画家マチス』という交響曲の中の第3楽章に「聖アントニウスの誘惑」があり、文学ではギュスターヴ・フローベールの『聖アントワーヌの誘惑』という作品があるようです。
「聖アントニウスの誘惑」が表現された絵画たち
ということで聖アントニウスの苦行と、「聖アントニウスの誘惑」を描いた絵画たちを見ていきましょう。
神の声を聞いた聖アントニウスは、財産をすべて他の人々に分け与え、妹は知り合いの修道女に養育を頼みます。そしていよいよ苦行の旅へ飛び立つのです。
第一の苦行 ハニートラップ
アントニウスのは村から少し離れたところで、他の苦行者と交流します。彼らの忠告や行いに従い、苦行者として生涯をささげることにしました。
そんなある日、アントニウスの若さにつけこみ悪魔が襲ってきました。
悪魔はアントニウスが断ち切っているものを取り上げて誘惑します。それは唯一の家族である妹やお金、名誉、美味しい食べ物です。
そして、美徳が要求する辛い労働を問題にしながら、苦行をすぐに止めるようにせまってきました。
悪魔は女に姿を変え、誘惑しはじめます。
アントニウスはこの誘惑を何とか耐えます!!
↓Louis Gallait画「The Temptation of St Anthony」
悪魔の美女のセンスが良いですね。
私好みです。
↓ロヴィス・コリント画「Temptation of Saint Anthony 」
出典:http://mementmori-art.com/archives/13460962.html
いくら美女でもここまで全力でたかられたら怖いですね。
美女恐怖症になりそうです。聖アントニオの顔も真っ青です。
コルネリス・マッシス画「聖アンソニーの誘惑」
出典:Cornelis Massijs - Wikipedia
美女「お兄さん、これどうぞ♪」
聖アントニオ「いや、本当に結構です。本当に。(チラ見)」
というやり取りが聞こえてきそうな絵柄です。
近くに老婆が控えてますが、アブノーマルな場合に備えているのでしょうか。
Henri Fantin-Latour画「The Temptation of St. Anthony 」
出典:File:Fantin Latour The Temptation of St Anthony.jpg - Wikimedia Commons
おそらく真ん中に聖アントニウスがいて、その周りを美女が囲っているのでしょう。
表現方法とタッチが相まってなんだか幻想的(悪夢的?)な聖アントニウスの誘惑です。
美女のかごめかごめ~ですね。
幻想的&怖くて好きです。
ヒエロニムス・ボス画「Temptation of Saint Anthony 」
出典:File:Hieronymus Bosch - Triptych of Temptation of St Anthony - WGA2585.jpg - Wikimedia Commons
ボスも聖アントニウスの誘惑の祭壇画を描いています。
奇怪なものを描くのが得意そうな画家なので相性のいい画題だったのでしょう。
画面の中央辺りに美女たちの誘惑場面が描かれています。
ピンク色の女性にのしかかられているのが聖アントニウスだと思われます。
この迫り方は恐ろしいですね。
サルバドール・ダリ画「Temptation of Saint Anthony 」
出典:The Temptation of St. Anthony (Dalí) - Wikipedia
By Source (WP:NFCC#4), Fair use, https://en.wikipedia.org/w/index.php?curid=61605456
ダリも聖アントニウスの誘惑を描いています。
おそらく手前左で十字架を掲げているのが聖アントニウスだと思います。
こちらに向かってくる奇妙なオブジェたちが誘惑(?)している悪魔たちなのでしょう。よく見ると女性であったり、性的なものを彷彿させる形をしています。
誘惑以前にこんなでかいものに勝てる気しない。
第一回の苦行の誘惑ハニートラップに何とか打ち勝った聖アントニウスですが、悪魔たちはあの手この手で誘惑を続けます。
ということで次回に続きます。
聖アントニウスの戦いはまだまだ続く。
今日はここまで。
最後まで読んでいただきありがとうございました。