リアル絵描き日記

画家明石恵のブログです。

自害を命じられた哲学者の最期をルーベンスはどう描いたか。巨匠が絵に残した嘘と思いやり。

今日も生きてます。

 

家の前の通りにイチョウの木が植えられています。

 最近は黄色い落ち葉が歩道にたくさん散っています。

 

一枚拾ってきてしまいました。

 

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ネットでみた蝶つくってみたくなったので…

ちょっと失敗して無残な感じになったので明日またチャレンジ!

 

 

 

 

 

 さて、今日も「人騒がせな名画たち」(木村泰司著、マガジンハウス)を読んでます。

 

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著者独自の視点から「人騒がせ」な作品を紹介している本です。

とても面白いです。

今日はその中から巨匠ルーベンスの作品セネカの死」を紹介します。

 

ルーベンス画「セネカの死」

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 出典:「人騒がせな名画たち」(木村泰司著、マガジンハウス) 

 

 

この作品は何が描かれている場面かわかりますでしょうか?

一般的には知ってる人少ないのでは?と思います。

私も「人騒がせな名画たち」を読むまで知らない作品でした。

 

 

実はこの作品は自害を命じられた哲学者のセネカが亡くなる場面を描いているものです。

 

 

 

 

〇哲学者セネカについて〇

 

左側:ネロ 右側:セネカ 

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出典:ルキウス・アンナエウス・セネカ - Wikipedia

 

ルキウス・アンナエウス・セネカ(紀元前1年頃 - 65年)はローマで活躍した政治家・哲学者・詩人です。

 

 

 

〇政治家としてのセネカは、いろいろな重役を歴任しましたが、最終的には執政官までなりました。当時幼少であった皇帝ネロを支えたともいわれます。

 

 

〇哲学者としてのセネカは、後期ストア派の代表的哲学者とされています。

ストア派の哲学は私には難しかったです。ざっくり下記のような感じでしょうか?

 

人間はロゴス(ストア派にとっての真理や世界の秩序・神的なもの)に従って生きるのが良い生き方。理性が大事で、欲望を脱却すべきだ。

ストア派ストイックの語源で、禁欲主義はストア派の考え方でもある。富や名誉などの欲望に打ち勝った先に幸福がある。

 

 

〇詩人としてのセネカは、「人生の短さについて」「寛容について」などの随筆や書簡・悲劇が後世まで伝わっています。悲劇はシェイクスピアに影響を与えたともいわれています。

 

 

 

セネカは欲望を是としないストア派の哲学者であるにも関わらず、政治家だった一時期は多くの富を集めていました。高い立場にあると禁欲的に生きるのも難しかったのかもしれませんね。

 

政治家として皇帝ネロを支えたセネカでしたが、ネロが暴走し始めると手に負えなくなったのか政治家を引退します。

 

引退後はストア派の理念に則って質素な生活をしていたようです。

 

その後、皇帝ネロに対する謀反計画が露見します。セネカが関与していたかは定かではありませんが、謀反計画をしていた一味の一人がセネカも関係していると証言します。

 

ネロはセネカに自害を命じます。

 

自害を命じられたセネカは初めドクニンジンを飲んだが死に切れなかったため、風呂場で静脈を切って死に至りました。

 

セネカは人気のある偉人だったようで、「セネカの死」をテーマにした作品はルーベンス以外にも多々あるようです。

 

ルカ・ジョルダーノ画 「セネカの最期」1773年

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 出典:ルキウス・アンナエウス・セネカ - Wikipedia

 

セネカについて理解したところでルーベンスの作品を見ていきましょう。

 

 

 

 

 

 

ルーベンス画「セネカの死」を見る〇

 

 ルーベンス画「セネカの死」1612-1623 

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 出典:「人騒がせな名画たち」(木村泰司著、マガジンハウス) 

 

真ん中に描かれているのはセネカです。

 

このポーズは古典の彫刻「アフリカの漁夫」をモデルにしています。

 

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 出典:「人騒がせな名画たち」(木村泰司著、マガジンハウス) 

 

(ルーベンスが生きていた頃はこの彫刻は「瀕死のセネカ」というタイトルで、セネカを表現したものとされていましたが、今ではアフリカの漁夫であるとされている。ちょっぴし悲しい事実。)

 

 セネカの顔も他の彫刻をモデルにしていると思われます。

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出典:Lucius Annaeus Seneca - Wikimedia Commons

 

絵の中のセネカと似てるかな?

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 背後には皇帝ネロが遣わした兵士たちが描かれています。

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右手にはセネカの血管を切る医師が描かれています。 

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ここであれ?となりませんか。

ルーベンスの描いたセネカは事実と反して自害していません。

 

歴史家によるとセネカは自ら血管を切ったとされています。

ルーベンスもこれを知らなかったわけではありません。

 

 

 

 

 

 

 

〇なぜルーベンスは偽りの場面を描いたか〇

 

15、16世紀の知識人にとって、ローマ時代の偉大な哲学者セネカは尊敬の対象でした。

それはルーベンスにとっても同じ事です。

ルーベンスセネカをとても尊敬していました。

 

そして同時にルーベンス敬虔なカトリック教徒でした。

 

カトリック教徒にとって自殺はです。

 

ルーベンスは自分の絵画の中で尊敬するセネカを自殺の罪から救おうとしました。

 

なのでルーベンスの絵画の中では事実と反して医師がセネカの血管を切っているのです。

(セネカキリスト教徒ではないので要らぬお世話かもしれないが。)

 

 

 

美術史に残る画家は、奇人変人の巨匠が目立ちますが、ルーベンス真人間です。超人気作家として大量の注文をこなしていました。工房も持っていました。

 

そして優秀な特使や外交官としても働いていたのです。しかもスペインとネーデルランドの平和のために積極的に働いていました。(「平和と戦争の寓意」という作品も描いています。)

 

絵の才能もあったし、知識人で教養もあり、平和のためにも働いていた…本当に素晴らしい人間です。

 

正直作品は私の好みではありませんが、人間としてルーベンスを尊敬しない人はいないでしょう。

 

セネカを絵の中で救おうとするなんて…さすがルーベンス!!!!!

 

 

ちなみにルーベンスは50‐60歳頃再婚した新妻との間に5人もの子供を作っている。

いろいろすごい。

 

 

 

今日はここまで。

最後まで読んでいただきありがとうございました。

akashiaya.jimdofree.com