キッチンの風景ー料理する人々を描いた絵画ー
今日も生きてます。
炊飯器で桃ケーキを作ってみました。ズボラな私でもホットケーキミックスでとても簡単になんとなくそれっぽいものが出来てうれしいです。(味はそこそこ!)
高品質なスイーツも安価で手に入る世の中ですが、自分で作るのもたまには楽しいです。
さて、「食べる西洋美術史」(宮下規久郎さん著、光文新書)読んでます。面白いです。
前回前々回辺りから気になる内容をブログに(備忘録的に)取り上げています。
①最後の晩餐って何を食べてるんだろうか。 - リアル絵描き日記
③楽しい宴会風景の中世絵画ーどの時代でも楽しい皆での食事ー - リアル絵描き日記
本中には食事風景を描いた作品の歴史だけではなく、調理場で支度をする人々を描いた作品の解説もありました。
料理人の調理してるところとか、映像でも見てるの楽しいですよね。
ブーケラール「マルタとマリアの家のキリスト」ブリュッセル王立美術館、1565年。
上の作品はキリスト教の聖書のエピソードをもとに描かれた作品です。
あらすじ
マルタとマリアの姉妹の家でキリストを迎えたときに、姉のマルタは主をいろいろともてなすために忙しく働いていましたが、妹のマリアはキリストの話に聞き入っていました。
マルタがマリアの態度に苛立ち、キリストにマリアを注意して手伝うように言ってくれと頼みます。
そうするとキリストは「マルタ、マルタ、あなたは多くのことに思い悩み、心を乱している。しかし必要なことはただひとつだけである。マリアは良い方を選んだ、それを取り上げてはならない。」
といいました。
手前で調理をしている女性が姉のマルタ、奥に小さくキリストと妹のマリアが描かれています。
姉のマルタは鳥の羽をむしっています。そして少し奥では長い鉄の串に肉の塊(?)を刺しています。
グラスやパンも用意され、これは大宴会の予感…!!(参加希望!)
聖書のエピソードによると、姉よりも妹やキリストの様子を大きく描いた方が意味が通じそうなものですが、この画題は建前で、キッチンの様子を描きたかったのかな?と思うほど手前の描き込みに見ごたえかあります。
研究者によると、手前に描かれた食べ物などの物質は、マリアの精神的な価値と対比され、現世の儚い価値を表現しているという捉え方もあるそうです。(深読みですねー)
ベラスケス「マルタとマリアの家のキリスト」ロンドン、ナショナル・ギャラリー
上は同じ画題をベラスケスが描いたものです。手前に描かれている姉・マルタの不服そうな顔が面白い。
マルタはにんにくをすりつぶしていて、台の上には魚と卵が用意されています。今日の晩御飯は何かなー?
魚はキリスト、卵はキリストの誕生と復活を象徴しているという見方もできます。
物語上ではキリストが何もしてないマリアを擁護して不条理にもとれますが、神学的には様々な解釈をされ、家事をするマルタもどちらも大事ととらえられたそうです。(深読みですねー)
アールツェン「パンケーキ作り」ロッテルダム、ボイマンス=ファン・ビューニンゲン美術館、1560年頃。
上の作品は農民の調理風景が描かれています。奥では丸いフライパンでクレープのようなパンケーキを焼いている人がいます。
手前左側にはチーズやパン、ワッフルが乗っています。
当時の農民ではこのようなミルクと卵、小麦粉のパンケーキはごちそうであったようです。
(現代の日本でもごちそうです!)
個人的にこの作品で気になる点ですが、皆パンケーキに超喜んでいるというよりは、リラックスしきった表情していませんか?心、ここにあらずという顔に見えるのは私だけでしょうか。
これは、何を描いている様子なんでしょうか?初見ではパッと見わからないですよね。
絵の断片から食べ物に関係していることは何となく感じ取れます。
題名に戦いとあるので、とりあえず何かと何かが対立しているのです。その対立してる謝肉祭と四旬節について確認していきます。
⚫謝肉祭
肉をふんだんに食べ、飲み、踊って祝う三日間の祭典
⚫四旬節
復活祭までキリストの受難をしのんで断食し、日曜日を除く36日はワインと肉を口にしてはいけない
どちらも初春の行事です。
中世から近世ては、粗食とごちそうは交互に食べるのが決まりでした。謝肉祭でたらふくものを食べた後には四旬節で断食をします。この作品は謝肉祭と四旬節の擬人像が戦いを繰り広げているのです。
絵の向かって左側が謝肉祭、右側が四旬節を表現しています。左側の謝肉祭側には居酒屋、右側には教会が建っています。対になっている箇所もあるのでそこを意識しながら見ても楽しいですね。
↑は謝肉祭の部分。
見るからに食べて飲んで浮かれているようにみえます。奥でパンケーキを焼いています。謝肉祭の最後の火曜日には残った食材を使ってパンケーキを焼くのが決まりであったそうです。
↑は四旬祭の部分
痩せこけた老婆が教会の椅子に座り、頭にははちみつ用の籠をかぶっています。手に持っているのはパンを焼くためのしゃもじで、にしんをのせています。足元にあるのはムール貝を入れるための容器です。プレッツェルや平たいパンもあります。
謝肉祭の方では身体が不自由な人が取り残されていますが、四旬節の方では施しを受けています。いろいろと見比べると面白いです。
ブリューゲル「農民の婚宴」、ウィーン美術史美術館、1568年頃。
上の作品は食事の支度風景ですね。手前でたくさん運ばれているのはプディングです。
「ブライ」というフランドルの地域独自のミルクと、お米またはリンゴや梨などでつくられ、ハレの日によく食べられていたそうです。
お米のプリンって美味しいのかなー?
カンピ「調理場」ミラノ、ブレラ美術館、1585年頃。
左端の子供は臓器に息を吹き込んでいます。
右側には鳥をローストするためにさばく少女
中央にチーズをすりおろす女
バターをつくる老婆
左には吊るされた牛をさばく男
奥の女は小麦粉を練って引き伸ばしている
さらに奥には宴会のためのテーブルがあります。
何か聖書の一場面を画題にしたものでは無く、ただ調理場を描いた作品です。でもなにやら騒がしくて楽しい場面ですね。そして大宴会の予感。
アレハンドロ・デ・ロアルテ「料理人」アムステルダム国立美術館、1622年。
こちらの絵も何か聖書由来のものでは無く、ただ料理人とたくさんの食料が描かれています。中央の料理人のどや感が半端ないですね。
前回と同様に、何かを調理する場面も、最初は聖書の物語と関連付けて表現されていたものが、だんだん食材や、料理の魅力を全面に押し出すものになりました。
今日はここまで。
最後まで読んでいただきありがとうございました。