リアル絵描き日記

画家明石恵のブログです。

平安放火事件の物語絵巻ー伴大納言絵巻ー

今日も生きてます。

 

「世界の地獄と極楽がわかる本」(田中治郎著、PHP出版社。)を買いました。

読むの楽しみだあー。

 

 

f:id:akashiaya:20200217180556j:plain

 

 

 

 さて、今日も『マンガでわかる「日本絵画」の見かたー美術展がもっと愉しくなる!ー』(監修矢島新、イラスト唐木みゆ、誠文堂新光社)を読んでいます。

 

絵巻物の元祖「絵因果経」や、「地獄草子」を取り上げてきました。

今日も絵巻物についてです。

 

〇伴大納言絵巻

 

「伴大納言絵巻(ばんだいなごんえまき)」について取り上げます。

 

f:id:akashiaya:20200217174306p:plain

Tokiwa Mitsunaga - http://sabasaba13.exblog.jp/3658621/, パブリック・ドメイン, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=15150561による

f:id:akashiaya:20200217100642j:plain

伴大納言絵詞(部分、応天門炎上)

Tokiwa,Mitsunaga(?) - Replica published by HEIBONSHA, Tokyo, 1986, パブリック・ドメイン, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=18102949による

 

伴大納言絵巻は実際に起こった出来事をもとに作られた絵巻物です。

 

日本の四大絵巻と称される、

 

源氏物語絵巻

信貴山縁起』

『伴大納言絵巻』

鳥獣人物戯画

 

 

の中に入ります。

 

 

 

f:id:akashiaya:20200217100918j:plain

Tokiwa Mitsunaga - [1], パブリック・ドメイン, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=18128023による

 

何やら炎上していたり、逃げ惑う人がいたり…

 

 

とっても不穏ですが、これは

 

応天門の変(おうてんもんのへん)」

 

という出来事から制作されました。

 

 

 

 

応天門の変とは?

f:id:akashiaya:20200217101701j:plain

Saigen Jiro - 投稿者自身による作品, CC0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=49089222による

平安神宮にある応天門の縮小復元レプリカ

 

 

応天門の変についてざっくり説明します。

 

 

 

〇事件が起こった時代

平安時代前期の貞観8年(866年)に起こった政治事件

清和天皇(858年- 876年)の時代

 

f:id:akashiaya:20200217155053j:plain

不明 - The Japanese book "天皇一二四代 (Tennō hyakunijūyondai)", in Bessatsu-Taiyo, Heibonsha, 1988, パブリック・ドメイン, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=9450417による

 

 

 

 

〇事件が起こった場所

f:id:akashiaya:20200217154140p:plain

 英語版ウィキペディアのStca74さん - en.wikipedia からコモンズに移動されました。, パブリック・ドメイン, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=2182381による」

↑の図の中にある応天門放火事件が起きました。

 

奥には天皇の居住スペース(内裏)があり、応天門の奥にある朝堂院は朝廷の政務や儀式を行う大事な場所でした。

 

そのすぐ近くの応天門が炎上したのですから、大変な事件でした。

 

 

 

 

 

 

〇主要人物

 

f:id:akashiaya:20200217155443j:plain

 常磐光長 - 伴大納言絵詞, パブリック・ドメイン, https://ja.wikipedia.org/w/index.php?curid=2592033による

 

伴 善男(とも の よしお)

 

ずばり放火した真犯人。

 

大納言の地位にあったが、自分よりも上の地位にある左大臣源信(みなもとのまこと)に放火の罪をなすりつけ、失脚させようとした。

 

上の画像は伴大納言絵巻の一部分だが、この人物が伴大納言か?という説がある。

 

 

 

 

 

 

f:id:akashiaya:20200217163558j:plain

Tokiwa Mitsunaga - [1], パブリック・ドメイン, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=18128108による

源信(みなもとのまこと)

 

事件当時は左大臣

 

放火をした犯人であると嘘の密告をされ、危うく罰せられるところであった。

 

 

 

 

 

 

 

f:id:akashiaya:20200217161041j:plain

Hannah - 投稿者自身による作品, パブリック・ドメイン, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=3868651による

藤原 良房(ふじわら の よしふさ)

 

事件当時は太政大臣

 

源信が放火の罪の嫌疑がかけられていると聞きつけ、天皇へもっとよく調べて~と言った人。

この助言のおかげで源信は赦免されます。

 

 

 

 

 

 

 

f:id:akashiaya:20200217162344j:plain

Tokiwa Mitsunaga - [1], パブリック・ドメイン, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=18081151による部分

舎人(とねり/しゃじん)

舎人とは、名前ではなく皇族や貴族に仕え、警備や雑用などに従事していた者の役職のこと。

 

絵の中には舎人夫婦が描かれている。

 

実はこの舎人は放火のあった日に,逃げる伴大納言一同を目撃しています。

 

この舎人が真相を話したことで真犯人が明らかになります。 

 

 

 

 

 

〇あらまし

 

 

 伴大納言絵巻三巻に分かれています。

 

 

 

上巻のあらまし

 

応天門が放火で焼けるという事件が起こる。

 

大納言・伴善男が「犯人は左大臣源信です」と朝廷に訴える。

 

左大臣源信は処罰されることになった。


処罰の報をきいて驚いた太政大臣藤原良房は、

 

「よくよくお調べになり、事の是非を明らかにしてから処罰されるのがよろしいかと」

 

天皇に申し上げた。

 

天皇左大臣源信が犯人だという証拠もないので、赦免することにした。

f:id:akashiaya:20200217174119j:plain

朱雀門内の群集

Tokiwa Mitsunaga - http://www31.ocn.ne.jp/~outlook/fudofire.html, パブリック・ドメイン, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=15150601による

f:id:akashiaya:20200217174205j:plain

風下で火の子を避けつつ炎上する応天門を眺める群衆

Tokiwa Mitsunaga - [1], パブリック・ドメイン, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=18070933による


f:id:akashiaya:20200217174408j:plain

清涼殿で清和天皇(左)に対面する藤原良房

Tokiwa Mitsunaga - [1], パブリック・ドメイン, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=18046223による

 

 

 

中巻のあらまし

 

 無実の罪に嘆く左大臣源信

赦免の知らせを受けてうれし泣きする。

 

場面は舎人が放火をして逃げる伴大納言・その子と雑色の「とよきよ」を目撃した時に代わる。

 

役所の仕事を終えて夜遅く帰る舎人が伴大納言一同を目撃し、「一体何をやっているのだろう」と、わけもわからずに見ていた。

 

その後、「宮中が火事だ」と騒ぐ声で、火事が起こったことと、「さきほどの人々は放火のために門に上っていたのか」ということに気が付く。

 

 


時は流れて9月頃。

 

舎人の子どもと、伴大納言の使用人の子どもとが喧嘩をしていた。

 

そうすると使用人の親が自分の子供を家に入れると、舎人の子供を死ぬほど踏みつける。


それを見ていた舎人は使用人と口論になり、伴大納言の秘密をばらすと騒ぎ出す。

 

しかし使用人は怒って自宅にはいってしまう。

 

f:id:akashiaya:20200217174522j:plain

涙にくれる左大臣家の人々、左奥にいるのは左大臣の夫人と子とみられる

Tokiwa Mitsunaga - [1], パブリック・ドメイン, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=18079545による

 

f:id:akashiaya:20200217174607j:plain

事件の真相発覚のきっかけとなった子供の喧嘩の場面、「異時同図法」の典型的な例として知られる

Tokiwa Mitsunaga - [1], パブリック・ドメイン, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=18068087による

f:id:akashiaya:20200217174723j:plain

叫ぶ舎人夫婦

Tokiwa Mitsunaga - [1], パブリック・ドメイン, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=18081151による

 

 

 

下巻のあらまし

 

この騒ぎが大きくなり、噂が朝廷にまで伝わる。

 

取り調べされた舎人は真実を話す。


こうして伴大納言は流刑となった。

 

 

f:id:akashiaya:20200217174824j:plain

取り調べを受ける舎人(手前)

Tokiwa Mitsunaga - [1], パブリック・ドメイン, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=18123174による

f:id:akashiaya:20200217174908j:plain

伴大納言逮捕に向かう検非違使の一行

Tokiwa Mitsunaga - [1], パブリック・ドメイン, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=18080937による

f:id:akashiaya:20200217175002p:plain

悲痛な面持ちで応対する大納言家の老家司(左)、あわてて出てきたのか裸足である

Tokiwa Mitsunaga - https://www.jstor.org/pss/30233678, パブリック・ドメイン, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=15150452による

 

 

f:id:akashiaya:20200217175102j:plain

絶望して泣く大納言家の人々

Tokiwa Mitsunaga - [1], パブリック・ドメイン, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=18080450による

 

 

f:id:akashiaya:20200217175157j:plain

大納言家の門から連行される大納言の車を涙ながらに見送る人々

Tokiwa Mitsunaga - [1], パブリック・ドメイン, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=18079494による

 

f:id:akashiaya:20200217175243j:plain

連行される大納言を乗せた八葉車

Tokiwa Mitsunaga - [1], パブリック・ドメイン, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=18101028による

 

 

 

 

 

 

 

〇伴大納言絵巻が制作された背景

 

この絵巻物は応天門の変のおよそ300年後に、後白河天皇常磐光長に描かせたものとされています。

 

今は出光美術館が所蔵しています。

 

 

 

 

 

 

〇伴大納言絵巻の表現

 

源氏物語絵巻の登場人物の顔の表現はあまり描き分けされていません。

鑑賞者にその想像をゆだねています。

 

 

それに引き換え伴大納言絵巻の中の登場人物は、約450人皆異なる表情で描き分けされています。

 

 

そんなたくさんの表情が描かれ、「表情の百科全書」とも呼ばれる絵巻物ですが、巻末まで放火犯である大納言 伴 善男の表情は明かされません。

 

粋ですな。

 

 

 

 

 

流罪になった大納言はその後伊豆でなくなったそうです。

 

より良いポストを求めて罪を犯してしまうなんて…そんなに偉くなりたいのか?と思ってしまいますが、朝廷の中ってずっとそんな争いが絶えない場所だったんでしょうね。

 

もっと楽に生きられたらいいのになあと、出世欲ゼロの私は思いました。

ともかくまさか出来のいい絵巻物にされ、後世にまで伝承されているなんて、あの世の大納言もびっくりでしょうね。

 

 

 

今日はここまで。

最後まで読んでいただきありがとうございました。

 

akashiaya.jimdofree.com