リアル絵描き日記

画家明石恵のブログです。

おしゃれなだけじゃない!ポップアートを理解するーアンディ・ウォーホルのキャンベル・スープ缶ー

今日も生きてます。

 

高校生の頃に購入した本にアンディ・ウォーホルの「ぼくの哲学」というものがあります。内容は一通り読んだもののほぼ全部忘れました。(爆)

 

アンディウォーホルは、ポップアートの巨匠。

↓の作品は有名すぎて誰もが一度はどこかで見たことあるはず。

 

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アンディ・ウォーホル「ワンハンドレッド・カンズ」油彩、カンバス、1962年。 

 

欧州のTHE絵画のようなこってり油絵ではなく、明るい色彩で描かれた身近なテーマ。私の中のアメリカのイメージはウォーホルの作品です。

 

正直何がすごいかよくわからんけど…おしゃれ!

 

昔はその程度の認識でした。

何冊か美術史の本を読んでもよくわからなったし、実物見ても感動は無かった。(有名すぎる西洋絵画作品あるある。おしゃんとは思った。)

 

 

しかし宮下規久朗さんの著作『食べる西洋美術史ー「最後の晩餐」から読むー』を読んで少し理解しました。

 

ということで今日はウォーホルの作品「キャンベル・スープ缶」についてみていきます。

 

 

 この作品を制作したのはアンディ・ウォーホル(1928年ー1987年)

ポップ・アートの巨匠として有名です。

 

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Unknown (Mondadori Publishers) - http://www.gettyimages.co.uk/detail/news-photo/portrait-of-the-american-artist-andy-warhol-at-his-news-photo/141553292, パブリック・ドメイン, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=43361035による 

 

 

代表作の一つとして知られるのは「キャンベル・スープの缶」(1962年)です。

この作品は連作で32点あります。

 

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「食べる西洋美術史ー最後の晩餐から読むー」(宮下規久朗著、光文社新書)より引用

 

モチーフとなっている「キャンベル・スープ缶」は、日本でも販売されているスープの缶詰です。連作の32という数はその時に販売されていた味(種類)の数です。

 

 

 

食べ方は、小鍋に缶の中身を空けて、空いた缶にそのまま水(または牛乳)を入れてそれを鍋に入れて煮ると、スープが簡単にできるというものです。アンディ・ウォーホルは日常的にこの缶詰をよく食べていたそうです。

 

 

 

 

 〇西洋美術史の中でのキャンベルスープ

 

この作品が描かれるまで、「絵画作品」の認識が変わるような作品が発表されていました。

 

 

 

マルセル・デュシャンの作品「泉」

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マルセル・デュシャン「泉」

マルセル・デュシャン - src Original picture by Stieglitz, パブリック・ドメイン, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=8648377による

 

既製品の男性用便器を反対にし、サインをした作品。

 

美術館に展示されたらそれは美術作品なのか?美しいとは何なのか?美術とは何なのか?作品とは作者が作ったものでないとダメなのか?…などなど、美術作品に対して哲学的な問いを多くした作品。

君のおかげで美術史がややこしくなったんだぜ。と高校生の頃思いました。

 

ジャスパー・ジョーンズの作品

バランタイン・エール」

 

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 「食べる西洋美術史ー最後の晩餐から読むー」(宮下規久朗著、光文社新書)より引用

 

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当時アメリカで身近な缶ビールをモチーフに、ブロンズ彫刻を作りました。また、星条旗や標的といった元々平面のものをキャンバスに絵画として描きます。

 

絵画・彫刻とは何か?絵画は旗と同じ平面であるし、彫刻も缶と同じような物体ではないか?現代社会のイメージも作品になるのではないか?…などなど、様々な問を投げ掛ける作品を多く制作しました。

 

 

 

それまでの絵画は、その中に描かれた虚構の現実を見せるものでした。しかし、絵画作品の認識が変わったことにより、絵画は描かれたイメージを見せるものでは無く、一つの物体として捉えられるようになります。

(ここら辺は美術畑以外には興味があまりないところかもしれません。)

 

絵画作品の存在や、美しさの意味を問い直す流れがあったということですね。

 

 

そのような流れのなかで、ウォーホルのキャンベルスープ缶はどのように受け止められたかというと…

 

 

〇絵画作品だってスーパーで並んでるものと同じ「商品」に過ぎない?

 


アンディ・ウォーホルのキャンベル・スープ缶の展示方法は、まるでモチーフにした缶詰の小品ように並べて展示されました。

 

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「食べる西洋美術史ー最後の晩餐から読むー」(宮下規久朗著、光文社新書)より引用

 

さらに今までは貴族が工房や作家に注文して絵画を制作していたものが、大きな市場で取引されるようになると、絵画は何か特別なものでは無く、スーパーやデパートで並んでいるものと同様の「商品」になったということも作品から読み取れます。

 

 

 

 

〇時代の表現としてのモチーフ「キャンベル・スープ缶」

 

アメリカは世界最大の缶詰生産国でした。

 

大量生産された缶詰は、民主主義の平等な社会の中で、人種も貴賤も関係なく同じものを食べているという事を示すモチーフでした。

 

そういえば「ぼくの哲学」の中で、「アメリカではセレブも貧乏人も同じコーラを飲んでるんだぜ!イエーイ!」というような一文があったような気がします。アンディ・ウォーホルはこの缶詰に対してもコーラと同じような思いを持っていたのかもしれません。

 

 

 

 

静物画としての「キャンベル・スープ缶」

 

静物画というのは、人類の食べ物の歴史とリンクしています。

 

いつ飢饉が起こり、飢餓になるかわからない時代、人々は静物画に描かれたみずみずしい果物や美味しそう食べ物に、不安を乗り越える勇気をもらいました。

 

人類が食材を生産・保管・輸送するシステムを開発し、飢餓を克服すると、スーパーでいつでも食料を手に入れることができるようになります。

 

缶詰めにされ備蓄に適した腐りにくい食べ物は、先進国の飽食の時代を示すモチーフです。ウォーホルは、直接スープを描くことなく、缶を描くことで食べ物を描きました。

 

西洋の静物画はキリスト教的な意味合いの強いものや、貴族の食べ物がモチーフになる傾向が古来よりあったので、ウォーホルの「キャンベル・スープ缶」の作品は、静物画史の中でも目新しいモチーフでした。

 

 

 

 

 

 

 

現代は「消費」という言葉に否定的な感覚がありますが、一昔前は違ったのかもしれませんね。ポップアートは、大衆消費社会、商品やイメージを題材にする人類の進歩を称賛するアートであったようです。

 

 

 

明るいポップアートを取り上げましたが、次回は闇の側面を取り上げた作品の回にします。

 

 

 

今日はここまで。

最後まで読んでいただきありがとうございました。

akashiaya.jimdofree.com